覚書004

・時間という変数がない世界は、決して複雑ではないのだ。その世界は相互に連結した出来事のネットであって、そこに登場する変数は確率的な規則に忠実に従う。[…]それは澄み切った世界、風が吹きすさび、山々の頂のような美しさに満ち、思春期の若者のひび割…

覚書003

そこに結晶するのは、生き続けるのをなんらかのかたちで妨げそうな記憶を抑圧する人間の能力に対する抵抗である。世界に突きださた人間はーーとノサックにはあるーー「背後をふりむく勇気がなかった。なぜならうしろは一面の火の海だったから。」― 出典: カ…

覚書002

今まで、何度も何度も、座席が開け閉めされてきたのだ。この席に座った人間たちが皆、もしも今、俺の膝の上に乗るとしたら、天まで届きそうなのだ。そうして、その人たちの聴いた音楽が全て鳴り出したら、それはきっと、色が重なると黒になるのと同じように…

覚書001

編集者の読みには、著者と読者の顔が見え、肉声が聞こえていなければなりません。それに対して校正者の読みは、つきつめていえば、生身の人間のいっさい介在しない世界です。(…)素読みでゲラの言葉と私とのあいだに一対一の信頼関係が生まれたとき、不思議な…